寺院が霊園を管理している場合のメリット
寺院が霊園を管理している場合のメリットブログ:16-08-05
「今日の11時ごはん、何がいい?」
ぼくはパパに尋ねた。
「テキが食べたいのぅ」
テキというのはビーフステーキのことだ。
昔はビフテキと言っていた。
パパはそれをさらに短くテキと呼んでいたのだ。
魚釣りが趣味の85歳のパパだから、
焼き魚とか、煮物とかを想像していた。
「ビフテキかぁ、うふふふ」
ぼくは意表を突かれて、笑いがこみ上げてきた。
パパは入院していた。しかも末期癌。
からだ中には特有の疼痛を抱え、
痛み止めも欠かせなかった。
根治することはもはや不可能で、
治療はもっぱら痛みをとることと、
延命を秤にかけるような綱渡り状態だった。
体力的にも
ある種の小康状態でいられる最後の段階だろうと言う。
主治医と相談して
思い切って自宅へ三日間の外泊を決めた。
その24時間目に食べたいと言ったのがビフテキだった。
上等の牛肉を張り込んで2枚買ってきた。
満足そうに食べるパパの顔を見ていると、
思い切って帰ってよかったと心から思った。
そして、自宅療養最後の日…
パパが自宅で過ごす最後かもしれないという
厳しい現実には気づかぬふりをして、
ぼくは尋ねた。
「今日は、何食べる?」
「お惣菜屋のコロッケがええのう。
アレならゴミも出んし、片付けもいらんしなぁ」
自宅で最後になるかもしれないご飯に選んだのが、
お惣菜屋のコロッケ…
疼痛にいつ襲われるかわからないパパを
車で2時間かけて
病院まで送り届けなければならないという大仕事を控えている
娘を思うパパの選択だった。
パパは最期までぼくを思い、気遣い、
パパとしてぼくを甘やかしてくれるというのだった。
ぼくはこみ上げてくる何かをこらえるのに
これほど苦労したことはなかった。